特設サイト「東京音楽学校の卒業演奏会」 コラム2
東京藝術大学 未来創造継承センター 芸術資源活用プロジェクト(2023年度実施)
プロジェクトタイトル「東京音楽学校における演奏会記録の保存・活用に向けたプラットフォームの作成」
卒業式で作曲専攻の学生たちの作品が演奏されるようになったのはいつからであろうか。それは1936(昭和11)年3月22日の卒業式からである。
東京音楽学校の本科に「作曲部」が設置されたのは1931年で、翌年から入学者の募集があった。つまり、1936年は、作曲専攻の第1期生が卒業した年にあたる。
作曲部の最初の卒業生は2名、柏木俊夫と渡鏡子であった。1936年3月の「卒業演奏」のプログラムを見ると、最初に卒業生一同による合唱がある。渡鏡子が作詞作曲した《夜の讃歌》と、ハインリヒ・ハイネの「帰郷」に柏木俊夫が作曲した《知らぬ旅路に夜は來りて》は、「卒業演奏」のはじめに無伴奏の合唱で演奏された。
次に、1937年3月22日の卒業式のプログラムに目を移してみる。前年と同様に、式次第の最後に「卒業演奏」があり、休憩をはさんだ2部構成となっている。この年は、休憩後の最初に作曲部卒業生2名の作品が演奏されている。西川潤一と長與恵美子、いずれも作品名は《自作主題に據るピアノ變奏曲》である。西川の作品は山田和男(のちに指揮者としても活躍する山田一雄)が演奏している。長與は自身の作品を自演している。
1938年の卒業式では作曲専攻の学生が出演していないものの、この年から、「研究科修了演奏会」でも作曲専攻の学生の作品演奏がプログラムに組み込まれるようになった。1938年の研究科修了演奏会では、2年前に本科を卒業して研究科に進んでいた柏木と渡の作品が演奏されている。柏木の作品は弦楽合奏曲《古式による絃樂合奏》、渡は弦楽四重奏曲《ドッペル・フーゲ》である。2人とも、本科卒業時の作品は声楽(無伴奏合唱曲)で、研究科修了時の作品は弦楽(四重奏曲)であったことがわかる。
柏木の卒業・修了作品の自筆譜は、2018年に大学史史料室に寄贈された。一方で当室は、現時点で柏木以外の卒業・修了作品を所蔵していない。東京音楽学校の卒業・修了作品のご寄贈をご検討される際には、ぜひ大学史史料室を選択肢の一つにしていただければ幸いである。
(仲辻 真帆)