Works of Kyoichi KITO
「正宏君の英魂に捧ぐ」との献辞がある。佐藤正宏は大正11(1922)年3月10日名古屋生まれ。6月生まれの恭一にとって三ヶ月違いの従兄である。軍人だった父の任地に伴い、正宏は内地に加え平壌や京城など各地の小・中学校に転校する中で、恭一と同じ県立愛知第一中学校に1年半在学し親交を深めた。昭和15(1940)年9月陸軍士官学校卒業、陸軍少尉。丸亀の歩兵第一一二聯隊付。翌年陸軍中尉。翌16年11月南方作戦に出発し、昭和17(1942)年2月24日ビルマ国にて戦死した。
作曲の時期は、後述の「表紙の消された文字について」を勘案し、早ければ鬼頭の東京音楽学校予科入学前、遅ければ同じ年の夏から秋頃と考えられる。ヘ長調、楽器指定のない、コラール風の17小節の曲である。譜面にあるAdagio(ゆっくり)、Grazioso(優美に)、Espressivo(感情をこめて)、dolce(やさしく)等の言葉は、正宏氏と曲への気持ちそのものであろう。楽譜は東京の佐藤家で焼失を免れた。靖國神社遊就館蔵。
「2604.10.30~2604.11.3完成 築城空にて」。皇紀2604年は昭和19(1944)年で「アレグレット」と同年の作品。譜面の最後に清水史子という作詩者名と「雨」の詩が書かれている。詩は婦人雑誌に掲載された読者の投 稿作品との伝聞があり、当時の婦人雑誌5誌にあたったが、確認に至らず、作詞者についても未詳である。小雨がけむり橘のかおる初夏(はつなつ)、南に散った「ますらを」の形見が女性のもとに届く。その哀しみは抑制されたた言葉に託され、歌曲《雨》は、初夏の情景に女性の哀しみを写し込み、劇的に歌い上げる。「《カルメン》のような血のかよった人間的なオペラが書きたい」と妹に語った、オペラ作曲家・鬼頭の片鱗が見えるだろうか。昭和50年9月、三宅悦子のソプラノと鬼頭の妹・佐藤明子のピアノが録音され、平成27年7月、本学オープンキャンパスのリハーサルにて演奏、同年8月名古屋のコーラスグループ「ココロニ」演奏会で公開初演。原本は靖國神社遊就館蔵。
佐藤正知様(正宏様令弟)、佐藤明子様(恭一様令妹)より資料提供とご教示、鬼頭正明様(甥御様)、讃井優子様(讃井智恵子様の御子息嫁御)、岡崎隆様のホームページより情報をいただきました。
『無題(アレグレット ハ長調)』
『女子学徒挺身隊』
戦没学生のメッセージ~戦時下の東京音楽学校・東京美術学校 トークイン・コンサート
鬼頭 恭一:無題〈アレグレット ハ長調〉
ヴァイオリン:澤和樹、ピアノ:迫昭嘉
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